2017年10月14日掲載文
フィールドアドバイザー西昭彦氏のレポート
〜南紀 串本大島初秋のグレ釣り 〜
朝夕、めっきりと涼しくなり、肌寒さすら覚える中秋となった。
先の夏の暑さは尋常でなく、残暑も非常に厳しいものであった。
それに追い打ちを掛けるかの如く9月は各地で勢力の強いままに上陸する台風により痛ましい被害が報じられた。
大分を始め、各地で大雨により被災された方に衷心よりお見舞い申し上げます。
[初の串本・樫野へ]
さて去る9月30日。
和歌山で行われたT社のテスター会にお声掛けいただき、関西・東海、北陸から集った約30名の名手と共に和歌山県串本の樫野で竿を振る機会に恵まれた。
普段、大分県南をホームとする私にとって和歌山県は未踏のエリアである。
朝5時半の岸払いで私は便の最後に角石という釣り場に単独で渡礁した。
釣り場の特徴をお伝えすると角石は背後は細い水道を挟んで崖となっており、釣り座は大きな一つの石である。
フラットな3畳程のスペースが全てあり足場は頗る良い。
※今回の釣り座・角石にて
ところが行動範囲の全域に渡り、足元の海面下は2メートル余りの張り出し根に包囲されており、本命のグレであれば手前に鋭角的に突っ込む事が予想される。
この為、可能な限り前に出てやり取りする事、竿を立て過ぎない事、極力ラインを出さずにロッドワークで凌ぐ事を頭に入れておく。
偏光グラス越しに熊野灘の地平線から昇り来る陽光を眺めつつ一息入れてから準備に取り掛かる。
ウキは浮力の少ない0αをラインに通してガン玉を打たない完全フカセとし、鈎はいつも私の釣りの基準にしている喰わせグレケイムラ5号を括りつけた。
[実釣開始]
さて実釣に入る。
樫野の磯グレについての予備知識は全くなく、数ヶ月ぶりの磯グレ釣りである。
※釣り座より見る右手の風景
それだけに逸る気持ちを抑え、竿を出す。
装餌、足元撒き餌、先打ち撒き餌、仕掛け投入、追い打ち撒き餌の一連の流れを基本とし、状況を伺いながら本命のグレとの距離を縮めて行く事とした。
(以降、基本動作と記載。)
竿を振りながら想像、感を働かせ
て餌の状態、鈎の塗装状態を一投毎に確認しながら丁寧に探っていく。
そのうち撒き餌が効いてきたようで20cm前後のグレがアタり始め、他魚も負けじと盛んにウキを引き込む。
序盤に竿を曲げてくれたのはシマアジ、カワハギ、アイゴ、サンノジとなかなか賑やかな顔触れで、いずれもケイムラグレがジゴクを貫いている。
九州で頭を悩ますアジゴ、サバゴ、スズメダイは居ないようだ。
しかもそれらは他魚とはいえ弱い引きではない。
ウキ入れ、強引き、やり取り、そしてタモ入れによるフィニッシュ。
熊野灘の海原を見ながら暫く味わえていなかった磯フカセ釣りの醍醐味に魅了される。
心底思うのはやはり楽しさである。
しかし時間は限られており、他魚の引きで楽しさに浸ってばかりも居られない。
規定サイズ無しでグレの五尾重量を審査されるため型を獲らなければならない。
この時点でライブウェルの中の本命は数こそ揃ったもののいずれも20~24cm程度である。
[手立て当たらず]
中盤以降、”如何に型を上げるか。”
が頭を占める事となる。
海はまだ夏磯の雰囲気が色濃く残っている事を釣った魚達が知らせている。
ここで基本動作に変化を加える事とした、
①装餌を先打ち撒き餌の後に持ってくる。
②仕掛け投入前に頭でカウントし、振り込む。
これらは撒き餌との同調を意識的に遅らせ、後から食い上がる良型のグレを狙うものだ。
③追い打ち撒き餌を数投に一回の割合に省く。
これは更に反応が悪く、数投前に打った撒き餌を中層以下で拾っている本命を狙ったり、本命ポイントに他魚や木っ端グレが集中する事を避けたいがための戦略だ。
これらを暫く続けてみたがいずれも本命の型は上がらず、期待の結果が得られない。
一連の動作を続けながらも次の手を模索する。
完全フカセからG7の極小ガン玉を一ヶ所に打ち、馴染みに変化を加えてみたが鈎掛かりする魚達にアカブダイ、サンバソウが加わってきた。
[導き出した結果]
改めて海を観察すると沖では左に流れているであろう潮流は磯付近では殆どなく、ストッパーがウキより沖向きにゆっくりと沈降する事で中層以下の流れは僅かながら沖に引かれている事が伺える。
ここまで実践してきた釣りと状況を考慮し、辛抱強く軽い仕掛けをゆっくりと入れ、木っ端グレ、他魚を押し退けて食い上がってくる良型に期待するしかないと判断した。
再び極小ガン玉を外し、なかなか落ちて来ないエサ(ツケエ)を演出するためにウキ下2ヒロ余りの位置にウキ止め糸を括りつける。
また朝からの経緯で縦横に撒き餌とツケエをきっちりと同調させると小さいながらグレが掛かる確率が高い事が分かった。
その為、もう一つ最後の変化を加えてみる。
ツケエが馴染むスピードを撒き餌により近づかせる為に鈎を比重の軽い釣闘競技グレ4号にチェンジし、更にタイムラグ無しの同調を試みる。
結果はすぐに出た。
仕掛け変更後の一投目。
仕掛けの馴染みと同時に鮮やかにウキを消し去って手にしたのが35cmの元気な口太だ。
中型ながら戦略が当たり、狙い通りに捉えた一尾だけに喜びも一入である。
続けざまに魚信に見舞われたが、相手は強い引きで重量と速さも備わっている。
明らかに良型と分かるが、残念ながら一瞬の対応が遅れ、前述の根に突進されて張り付かれてしまった。
暫く待ってみたが根掛かりしたように出てこず、泣く泣くハリスを切った。
このように撒き餌とツケエを平面的・立体的に合わせ、極力沈下速度も近付けて同調させてやる事で良型は食ってくると判断した。
しかし既に時間が迫ってきている。
残り少ないバッカンの撒き餌をかき集め、同じ釣り方で連打を目論む。
三たび指を弾いてラインが出て行く大アタリを捉えた。
慎重にやり取りしたがアタリのわりに素直に海面に浮いたのは40cmを超えるイサキであった。
最後に思わず頬が綻ぶ旨いお土産をタモに納め、仕掛けを切った。
こうして実釣を終えた結果、手痛いバラシも有り、釣果としてはもう一つ。
順位は10位とパッとしなかったが、集中力が途切れる事なく、苦労して答えを引き出せた事で多いに満足のいく釣りとなった。
※キープした魚。(元気な小型グレは検量後に港でリリース)
九州に居ると訪れる機会は少ないだろう串本・樫野。
海原、深い潮色に磯の性質。
そして無垢で正直な魚達。
何もかも素晴らしい環境が保たれているフィールドであると感じた。
今後の樫野は寒が入ると日に日に型も上がり、更に楽しい釣りが体験出来だろう。
今大会にお声掛けいただき、お世話して頂いた知人・友人に心から感謝したい。
最後に。
仕掛け道具の中でも鈎、ウキ、ラインなど、パーツの選択よる影響は殊の外大きい。
ましてや日々、千差万別の海である。
何れも自分のベースとなるものを基準として釣りを組み立て、その日そぐわない場合の変化はそこからの比較と展開である事を改めて痛感した。
今回、答えを出せた要因の一つにYAIBA HOOK・釣闘競技グレ5号の軽比重が一役担ってくれた事を付け加えておく。
皆さんもYAIBAの鈎で楽しい釣り、充実の釣行に恵まれますように。
フィールド・アドバイザー
西 昭彦